人生 ああ鱈腹味わいたい

毒親疑惑の親が高齢になりまして・・・

親子逆転。 ほんとは母に甘えたかった、寂しかったのだと、今ごろ気がついた

結婚して数年後、夫が手術で入院することになった。

緊急だったり重篤な病状ではなかったが

私が一晩病院に泊まって付き添うことになった。

子供がまだ幼かったので、母に来てもらうことになった。

 

その時の母の言葉だ。

 

「わたし(母)と〇〇ちゃん(小春の子供)の

食事をちゃんと用意しておいてよ。

小春のところで買い物も食事作りも何もわからな

くて、できないから!」

 

うん、わかったよと返事をしたが、

娘の夫が入院するときに、普通そういうこと言う?

 

一人では何もできない人だったし、料理も苦手な

人だったから、来てくれて子供をみてくれただけ

でも感謝しなくてはいけないのだろうけど。

 

母は一人で電車に乗れない人だった。

途中の駅で乗り換えるのがわからない。どこで

どの電車に乗ればいいのかわからないと言う。

当時まだ50歳前後、老人というにはまだまだ早い。

いえ、歳のせいではない、若い頃からそうだった。

 

新宿や渋谷駅ではなく、田舎のローカルな駅なのだ。

乗り換えの表示があちこちにあるし、もしわから

なかったら駅員さんに聞けばいいよと言っても

不安だと言う。

 

実家からうちまで2時間、電車を乗り継ぎ、バスに

乗り・・・母一人では無理そうだったので

よちよち歩きの子供を連れて途中まで迎えに行った。

 

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ここまで書いて、

えーなんなのよ、自分のことばかり心配して、

こっちは夫が入院するのよ!

という、あきれる気持ちとか怒りの感情だけでは

ないことに気がついた。

 

実はその少し前、同じアパートのママ友が風邪を

ひいたとき、ママ友のお母さんが、おそらく夕食が

詰められた重箱を持って来て、代わりに子供を

抱っこして受け取り、車で帰って行ったのを

偶然見かけた。

 

体調が悪い娘に夕食を持って来て、小さな子供を

預かり実家に帰って行ったのだ。

 

その光景を思い出して、そういう優しいお母さんが

羨ましかった。

 

「手術大変だね、きっとうまくいくから大丈夫だよ。

今夜のおかずはいっぱい作って持って来たから、

〇〇ちゃんとおばあちゃんで家にいるから、安心して!」

 

そんなふうに言って欲しかった。

甘えたかった。

 

いつもいつも小春が母のことを気遣ったり世話して

ばかりだった。親子逆転?

小春が大変なとき不安なときくらい、母に頼りたかった。

甘えたかったのだと思う。

 

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その20年後、今度は実家の父が入院することになった。

老化に伴うよくある症状だったので、数日で退院

できる予定だった。簡単ではあるが一応手術なので

病院に付き添っていた。

 

無事に終わり、病院から実家に帰るとあたりは暗く

なっていた。家で留守番をしていた母が居間に

ひとりポツンと座っていた。

周りを見回しても、食事の支度の気配など何もない。

暗い台所は冷え冷えとした空気が漂っているだけだった。

 

なにか簡単なものでも作っていてくれてるだろうという

期待は砕け散った。空腹と一日の疲れにどっと襲われた。

 

「何も食べる物がないのよー」という母。

冷蔵庫を開けて何かを作ろうと思うが、気力が出ない。

 

「わたしは何もいらない、お茶漬けでいいよー」

母のその言葉で怒りがこみ上げた。

こみ上げただけで、その怒りをぶつけることは

できなかったが・・・

だから今まで心の奥でくすぶっていたのだろう。

 

お茶漬け!? 

小春はお茶漬けなんか嫌だーーー!

お昼は病院のベンチでコンビニのおにぎり食べただけだ。

疲れたときこそしっかり食べる、栄養バランス考えて

美味しいものを食べる。それが小春のやり方なのだ。

 

その考えも、母を反面教師にして身につけた。

母は料理が苦手というよりは、興味がない、面倒な

ことはしたくないという感じだった。

だから、栄養面にもまるで関心がなかった。

 

前にも書いたが、母の作ったカレーやハンバーグなんて

一度も食べたことがない。小春が作ってあげたことは

何度もあるが・・・両面焼きのグリルがあるのに

秋刀魚をフライパンで焼く人だった。理由はグリルを

洗うのが面倒なのだそうだ。

 

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その時も、怒りでいっぱいだったが、怒りの裏側に

寂しさ、悲しさがあったと、今になって思う。

 

「病院で大変だったね、疲れただろう?

おうどんしか作ってないけど、一緒に食べようね。」

 

栄養面のことなんかどうでもいい。

そういう優しい言葉と、暖かい食べものが欲しかった。

甘えて、ホッとしたかったのだ。

 

母への怒りは、寂しさと背中合わせだった。

ほんとは小春だって、もっともっと甘えたかったのだ。

いつも母から頼られていたが、小春だってたまには

母を頼りにしたかったのだ。

 

亡くなったあとで気がついても、仕方のないことだけれど。