人生 ああ鱈腹味わいたい

毒親疑惑の親が高齢になりまして・・・

「家持ち娘」ではなく、ただの娘ではダメなの?

母の入院している病院に行き

病室で過ごしたり、母の車椅子を押して

廊下を歩いていると、看護師さんや

入院患者さんからよく声をかけられた。

 

「あら、娘さんが来てるのね」

 

すると母は必ず大きな声でこう言い返した。

 

「いいえ、この子は家持ち娘なの!」

 

「家持ち娘」

家を継いで、親の世話をする娘。

母にとっては、家事手伝い人、保護者

みたいな感覚だったのだろうか。

あくまで主は母なのだ。

 

言われるたびに重苦しい気分になった。

ただの母と娘ではダメなの?

家とか何も関係ない、ただただ無条件に

愛する娘と愛する母。

そんな母娘だったらいいのに。

 

私は「家持ち娘」だから大切にされているのだ。

ただ娘というだけでは愛されていないのだ。

いくら違うと打ち消しても、そんな寂しさが

次々とつのってきた。

 

 

そんなある日のことだ。

同じ病室の隣のベッドの高齢の女性が

突然母に向かって話しだした。

 

「娘、娘と言ってもね、子供の頃の娘と

大人になってからの娘は違うのよ。

大人の娘には娘の事情があるのよ。」

 

いつも隣のベッドから母と私を見ていて

何か思うことがあったのかもしれない。

母はなにも応えなかった。

おそらく意味が理解できなかったのだろう。

 

病院の看護師さんやリハビリの先生たち

みなさん一生懸命にしてくださったが、

少し私には辛いこともあった。

「もっと顔を見せに来てあげてくださいね。」

「リハビリも見学してあげてね。」

「一時帰宅も考えてあげてください。」

 

職務上、母のことを一番に考えて言ってくれて

いるのはわかるけど、すでに限界だった私には

もっともっと!と言われているようで、

しんどく思えたこともあった。

 

リハビリルームへは何度か見学に行った。

バーにつかまりながら歩行練習をしていた母は

私を見つけると

「小春ーーーーっ」と大きな声で叫ぶ。

そして私にすがりつく目をして、泣き始める。

 

「ほら頑張ってるよー」という感じではないのだ。

悲壮感が漂っていて、すごいパワーで

私にすがりついてくるようで少し怖かった。

そういうことがあった日は、夜眠れなかった。

 

批判を覚悟で正直に書くと

海で泳いでいて、自分が泳ぐだけで精一杯なのに

溺れている母にしがみつかれた感じだった。

2人で海底に沈んでいきそうな恐怖感に

近かったかもしれない。